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「終わってしまうね。」
彼女はそういって、寂しげに笑った。 絵本の最後のページを閉じるように、 明けていく夜の後ろ髪をひくように、 とりとめない独り言が、ふと途切れた。 醒めない夢から、 美しすぎるほど澄んだ水の夢から醒めるように、 彼女は彼女から出て行った言葉の余韻をもう一度確かめて、 寒すぎる空に、ひとつ、ため息をついた。 ため息は白く残って、すぐに冬の空気に溶けていった。 ため息にのせた、言葉に出来なかった感情たちも 残ることなく、冬の夜空に昇っていった。 つかむことは出来なかった。 引き止めることも出来なかった。 書き留めることも出来なかった。 忘れないでいることが出来なかった。 覚えていることが出来なかった。 どれだけ同じところをぐるぐるしても 二度と思い出せないことを 彼女は知っていた。 空しさか、 情けなさか、 悔しさか、 恋しさか、 もどかしさか、 憤りか、 彼女の瞳から 涙が 溢れてきた。 本当は、知っていた。 もう既に全てが「終わってしまっていた」ことを。 彼女の物語は、 とうの昔に幕が下りていた。 でも彼女は終わらせたくなかった。 前へ進みたかったのか、 戻りたかったのか、 立ちすくんでいたかったのか、 壊れてしまいたかったのか、 彼女はもう分からなくなっていた。 涙は、叫びへと変わった。 しかし、その叫びが届くことはなかった。 PR この記事にコメントする
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