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嘘色エゴイズム。
薄汚れた世界の真ん中で、眩い過去を想っていた。
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空を飛ぶことが大好きな小鳥がいました。


時には陽が昇りくる東の空を
時には雨が打ちつける南の空を
時には赤く焼けてしまいそうな西の空を
時には星が降りそうな北の空を
いつでも、どこにでも、飽きることなく、
自由自在に飛び回りました。

その小鳥は、
他の小鳥よりも
飛ぶのが少しだけ早く、
羽の色が少しだけ綺麗で、
十分に愛されている、と
信じて止みませんでした。


小さな小鳥は
誰もが口々に言う「果てのない世界」の果てが見たい、という
とても大きな夢を持っていました。

誰よりも早く、誰よりも綺麗に、誰よりも愛されていると思う小鳥は
そしてその夢はいつか叶えられるものだと信じていました。
それが自分には許されていると信じていました。

 


しかし

 

ある日、自分より早く飛ぶ鳥に出会いました。
小鳥はそんなこともあると思いました。
それでも小鳥は他の小鳥より早く飛べる自信があったのです。

ある日、自分より綺麗な羽を持つ鳥に出会いました。
小鳥は少しだけ悔しくなりました。
それでも小鳥は自分より醜い羽を持つ鳥がいると思いました。

ある日、愛し合いながら飛ぶ二羽の鳥に出会いました。
小鳥は衝撃を受けました。
自分はあんなに一身に愛されていたことがあるか疑問を抱きました。


そしてある日、
小鳥は自分は平々凡々なただの鳥であることに気づきました。

自分が今まで誇っていたことは
狭い世界で見ればすごいことだったけれど
広い世界で見れば特別でもなんでもないのだと
気づきました。

 


そして、小鳥は頭の良い鳥から
空の上には真っ黒な宇宙があって、
この空が青いのは「光の散乱現象」がゆえんであることを教えられました。

 

昔から恋焦がれていた空の青が
突然褪せてみえるようになりました。

 

 

 

 

そして小鳥は思ったのです。

 

“ここにいる いみ って なんなんだろう”

 

 

 

あんなに飛ぶことが大好きだった小鳥は
羽を強くはばたかせることをやめてしまいました。

小鳥は二度と飛ぶことは叶わない、といわんばかりに
扉の開いた籠に入ることに決めました。

時には籠の中で羽をばたつかせてみても、
光がさしこんだあの美しさはもう見ることができなくて、
すぐに羽を休めてしまうのです。

その上、
軽やかに翻すことの出来た体も
少しずつ成長していって、
もう飛ぶことは出来ないんだ、と思うようになりました。

そして次第に
飛び方を忘れてしまったように、呆然とするようになりました。
高く飛ぶ鳥たちをただただ羨ましそうに見上げるだけで
あの鳥たちにはもう届かないのだ、と決め付けるようになりました。

 

自由に飛んでいたころに見た景色も、
次第におぼろげな記憶に埋もれていきます。
何度も何度も
東に広がる海を見に行ったことすら
もうセピア色に褪せてしまった記憶なのです。


昔、果ての無い世界の青に触れに行くだなんて
大層な夢を持っていた自分を自嘲するようになりました。
そんなことは出来なくなったのです。
そんなものを夢見るのは阿呆のすることだと思うようになりました。


かつての小鳥は、大人になってしまいました。


小鳥が生きる意味はきっと夢見ることだったのです。
ひたすら夢を見続けることが、叶わぬ夢を追い続けることが、
小鳥の生きがいだったはずでした。

その生きがいを失ってもなお、生きるのは何故なのだろう、と
小鳥は思いました。
もしかしたらもう自分には生きる意味なんてないんじゃないかと
思うようになったのです。


もう十分だ、もうやめてしまえばいい。


小鳥は考えることをやめました。
苦しいことは考えなければいいのです。
物事は勝手に動いていくのだから、
成り行きに任せていれば自分は在るべき場所に導かれるのだと、
それが楽な生き方なのだと思いました。

 

小鳥は生きる気力を失い始めました。
やせ細り、かつての羽の色彩は失われ、
遠くを見る目は力のないものに変わっていきました。

やがて、
小鳥の息は細いものになっていきました。


小鳥は思いました。
これが望んだ道なのか、と、
自らに問い掛けました。
いや、これは導かれた道なのだ、と
自らに応えました。

納得をするでもなく、
反論をするでもなく、
静かにその結果を受け入れようとしました。

 

 

その時でした。

 

 


かつて小鳥と共に空を駆け巡った鳥が
小鳥の元に訪れたのです。

昔は小鳥に懐いて、
決してそばから離れない頼りない鳥だったのに、
今では立派な羽を持ち、
力強い意思を持った瞳を持ち、
随分変わったんだな、と小鳥は思いました。

立派になった鳥は小鳥の姿を見て、こういいました。


ずっと むかし まよいながら いった ひがしの うみを おぼえてる?


小鳥は唖然としました。
久しぶりに会った鳥の口から
思いもよらない言葉が出たのです。


ほら きみが ぼくに うそを おしえた ところ。
たいようが うみに しずむ しゅんかん おとが きこえる って。


小鳥は色を失い始めた記憶を探りました。
ずっとずっとずっとずっと昔、
まだこの鳥が飛び方すらままならなかったころに、
特別な場所へ連れて行って、とせがまれて
何回も木で羽を休めて、長い長い時間をかけてたどりついた、

あのひがしのうみを思い出しました。


じゅ って きこえるから みみを すませてごらん って うそ?


小鳥はそのもっともっと昔にきかされたはなしを
そのうそを教えてもらったときのことを思い出しました。
遠くに飛び立った父親に連れて行ってもらった海で
きかされて信じてしまったうそでした。

父親と行った時は
その小鳥がもっと小さくて、飛ぶことすらままならなかったことを思い出しました。

 


そういえば、あの海の広さを見て
あの青く広がる海を見て
世界の広さを、飛べばどこへでもいけることを、
知ったのだ、と
小鳥は思い出しました。

 

そんな小鳥をよそに、鳥は語り続けました。

ぼくの こどもが あの うみを みたいと いうんだ。。
でも ばしょを わすれてしまったから
もういちど つれていって ほしいんだ。


この鳥が小鳥より小さな鳥でそんな風にせがまれたこと、
そして小鳥が小さな鳥の時に父親にそうやってお願いしたこと、
そして次はこの鳥が子供に連れて行ってほしいといわれたこと。

思い出して、想って、
ふたをされていた記憶は勢いを増して
小鳥の渇いたこころを潤していきました。

 


小鳥は
こころが青く染め上げられたように感じて、
涙を流しました。

 


籠の中にいた小鳥は
もう一度、飛びたいと思いました。

開いたままの扉から飛び立とうと
空を見上げて、羽に力をこめました。
うまく羽は動きません。
体を動かすことすら、重労働です。

痛みや苦しみからはもう十分目をそむけました。
だからこれからは立ち向かわなければなりません。

鳥は、心配そうに小鳥を見ました。
あまりにも辛そうだったので、
急いでたべものを持ってきました。

小鳥は鳥がもってきたものを食べると、
さっきよりも少しからだが動くようになりました。
立ち上がって、羽を広げました。
今までよりも羽は重く感じました。
この羽を羽ばたかせられるか、心配になりました。

だいじょうぶ

鳥が小鳥にいいました。
小鳥にとって小さな頼りない鳥でしかなかったのに
今は立派に大きい鳥、というだけではなく
お父さんと呼ぶにふさわしい姿になったように感じました。

 


そして
小鳥は勢いよく羽を上下に動かしました。

開いたままの扉から
力強く、飛び立っていきました。

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