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嘘色エゴイズム。
薄汚れた世界の真ん中で、眩い過去を想っていた。
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甘美な麻薬に痺れたまま、
あたしはこの海底から動けない。

光が奪われた瞳も
美しい珊瑚礁を映し出すし、
酸素はあなたがくれる。
膜が張ったように
遠くから、近くから聞こえるあなたの声。

傷付けるものは何もない。

あたしは、ああ、幸福なのね。

とろとろに澱んでいく思考の中で
あたしは大切なものを
またひとつ、忘れていく。



目が覚めると、
浅い水底にいるような青が部屋に充満していた。
こういうの、なんていうんだっけ。
少し前に読んだ小説の中に書いてあった、なんとか現象。
とても綺麗な、青。
それは幻想的で、刹那的で。
だけどあたしの心はそれに反して、ひどく残酷な気持ちになってしまう。
壊してはいけないけど壊したかったものを
めちゃくちゃに、してしまったあとのような気持ちになる。

瞬間、ひどく怖い夢を見ていたような記憶が蘇る。
大泣きしていたような、空を飛んでいたような、
ただただひとりぼっちのような。
唐突に不安に陥ったあたしは
枕元にある携帯を開いて、一番上の発信履歴を選択し、電話をかける。

彼の声が聞きたくなった。

発信ボタンを押したあとのぷるるる、って音は
やたら他人行儀に聞こえてしまって緊張する。
あたしは確かにあの人の携帯にかけているのに、
どこか全然違うところにでも繋がってしまいそうな予感さえしてしまう。

『…もしもし…?』

2コール目が終わった時、気だるい彼の声がした。
その声を聞いただけで、あたしはとてつもなく安心してしまう。
ほっと胸を撫で下ろすと、電話は役目を終えてしまった。

「おはよ。寝てた?」
『んー…』
「ごめんね、今何時?」
『5時くらいじゃない?…どしたの?』

あたしは、は、と気付く。
彼に、どしたの、って言われて、やっと思い出す。
夢の内容を。

「こわいゆめをみたの」

動悸がする。鼓動が早まる。呼吸が苦しくなる。
それは全て気のせいかもしれないし、
もしくは汗ばむくらいに症状が出ているかもしれない。

「深い深い海の底でね、あたしはひとりだったの」
『…そっか』
「すごく、こわかった」
『大丈夫』

『俺がいるから』

知っていた。
怖い夢を見た、と彼に言えば、側にいると再確認出来ると。
指が震えて、涙がこみあげそうになる。

「ありがと。…ごめんね、変な時間に。…うん、おやすみ」

ピ、と電話を切ると時間は17時すぎを指していた。
変な時間に寝たせいで、変な夢を見た、といっておいた。

だけどあたしには、紛れもなく真実だった。

深い海底にいることも、
幸福であることも、
彼の声が欲しかったことも、
とろとろに溶け始めた思考が―――

つ、と一筋の涙が伝う。
嗚咽はあげない。
これは泣いてる訳じゃないんだから。


こわれてしまう予感。
こわしてしまおうかという欲望。
きっとあたしは
他人を傷つけながらでしかこわせられない。


(だけどきっとあたしはもう深海から上がれない。
 この目はもう、目の前の淡い光しか映せないくらい、弱ってしまったから。)
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